日本の臨床工学の未来を拓く。日米の架け橋として次世代の挑戦を応援します

深夜の電話と空港ダッシュ、そしてカンファレンス最終日の熱気

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病院見学が、

予定になかった病院見学の日を翌に控え、私は早めにベッドに入りました。体調を万全にしておきたかったからです。ただ、日本から来たお二人は重度の時差ぼけ中で、ホテルでもなかなか眠れなかったようでした。

夜中の3時20分。静寂を破って電話が鳴りました。

お二人からの連絡です。航空会社から緊急のトラベルアラートが出たとのこと。明日の帰国便について、日本への台風直撃の可能性が高まっている。もしこの便が欠航になれば、振替便の確保は2〜3日は絶望的。しかし今日の便であれば、今すぐ座席が確保できる。

深夜の緊急会議が始まりました。数日足止めを食らえば、日本の病院での勤務に穴が空いてしまいます。それは医療従事者として絶対に避けたい事態です。話し合いの結果、お二人は急遽今日帰国するという決断を下しました。

ここからは時間との戦いでした。

今日の便の座席をなんとか押さえ、荷物をまとめてホテルをチェックアウトしたお二人を車に乗せ、急いで空港へ向かいました。到着しても試練は続きます。急な変更だったため自動チェックイン機が使えず、有人カウンターを探し回ってようやく手続きを済ませました。朝の5時台だというのに、セキュリティチェックには信じられないほどの人だかり。最近のニュースで人員不足により時間がかかると警告されていたのは本当でした。それを実証するかのような長蛇の列です。

フライト時間が迫る中、お別れを惜しむ暇もなくお二人には列に並んでもらいました。見送る側としてもハラハラしましたが、なんとか列が動き、無事にゲートの奥へ入っていった時には心底ホッとしました。

直行便はすでに確保できず、乗り継ぎ便で到着地も変更になっていました。まだ飛び立ったわけではないので、私はメッセージでやり取りしながら待機です。ゲートに到着したとの連絡を受け、再び胸を撫で下ろしました。ホテルへ戻りましたが、続いて入ってきたのは「まだ飛びません」「20分遅れです」、そしてようやく「動き出しました」との一報。ベッドに寝転がりましたが、見送った直後ほどやきもきして眠れないものです (笑)。

数時間後、乗り継ぎ空港に到着したお二人から、「乗り継ぎ便の出発時間が30分と迫っているので、飛行機から早く降りたいと客室乗務員に直接交渉したものの、後方席なので前列の人の降機待ちです。」という連絡が入りました。私ができることは何もなく、「客室乗務員がそういうのなら、間に合うってことでしょ」と、気を落ち着かせることくらいで、ただ見守るしかありません。しばらくして「飛行機から降りました。時差で時間が1時間戻りました」という連絡と共に、ずっこける絵文字が送られてきました 😅。

タイムゾーンが変わって時計の針が戻っていたため、乗り継ぎ時間にはたっぷりと余裕があったのです。最後は笑い話になりました。お二人が搭乗待合所で羽田行きの便を待っているのを確認し、私はカンファレンス会場へ向かいました。その後、お二人は定刻通り飛び立ち、無事に日本へ帰国されました。


AAMI eXchenge 2026 最終日

カンファレンス会場に到着すると、最終日のプログラムが始まろうとしていました。壇上には理事長と副社長の姿があります。「もう最終日だなんて信じられません」と、副社長はコロナ禍以降で最高の参加者数を記録した今回の大会の成功を祝い、こう語りました。旧友やかつての同僚に会えるのも素晴らしいが、この仕事で一番好きなのは次世代のプロフェッショナルたちと関わることだ、と。

そして始まったのが、徒弟訓練プログラムの卒業式でした。2022年にゼロから立ち上げられたこのプログラムは、現在では50を超える雇用主パートナーと50名以上の受講生を抱えるまでに成長しています。今日は厳しいプログラムを修了した8名の卒業生を祝う晴れ舞台です。

私たちの分野は現在、深刻な人材不足に直面しています。即戦力となる有資格のプロフェッショナルが市場に枯渇しており、多くの病院が自前で技術者を育成せざるを得ない状況です。しかし、これまで最低限の能力水準を保証する公的な仕組みがありませんでした。これを変えるために作られたのが、AAMIと米国労働省が共同で認定するこのプログラムです。現場での実務と能力ベースの学習、正式な教育を組み合わせた画期的な仕組みでした。

式典には米国労働省の担当者も登壇し、非常に熱いスピーチを行いました。自身もかつて第一期生としてキャリアをスタートさせたという彼は、雇用主たちに向けて力強く語りかけました。ビジネスを良くするために毎日投資をしているのに、なぜ人には投資しないのか。この登録制プログラムに投資すれば、1ドルに対して約1.48ドルのリターンが得られる、これはビジネスの投資として非常に優秀な数字だと。

全国で5,000人もの若者がこのプログラムの待機リストに名を連ねているそうです。人材供給源がないと嘆くのではなく、自ら次世代を引き上げる。それこそがリーダーの残すべきレガシーだと感じさせられる、素晴らしい卒業式でした。


The Joint Commission の Keynote

今年のカンファレンスの目玉である基調講演に入る前に、ジョイントコミッション審査認定機関について少し整理しておきます。日本で言えば厚生労働省の立ち入り検査と医療機能評価機構の審査を掛け合わせたような存在です。アメリカの病院が公的医療保険 (メディケア・メディケイド) から支払いを受けるためには、参加条件を満たす必要があり、この機関がその基準を守っているかをジョイントコミッションが審査し、認定を与えます。多くの病院にとって公的保険からの収入は全体の60〜80%を占めます。審査で不合格になり認定を取り消されれば、経営が立ち行かなくなります。だからこそ、審査官がやってくると聞けば、アメリカ中の病院関係者が震え上がるのです。

今回の基調講演は、その審査する側の中枢にいる人物から、直接最新の審査基準や対策を聞き出せるという、現場の人間にとって喉から手が出るほど欲しい情報が詰まったセッションでした。

大きな拍手の中、登壇したのはリード・ライフセーフティコード・サーベイヤーです。医療業界で40年の経験を持つ大ベテランで、米空軍の医療サービス管理官や大学病院の臨床技術部門ディレクターも歴任した人物です。

彼が解説したのは、新たに打ち出された審査プログラム「Accreditation 360」です。

最大の目的は、基準を簡素化し、評価の焦点を提出物から患者の成果へと移すこと。病院に求める実施要素の数を劇的に減らしたといいます。なんと1,551から774へと半減させたのです。これまでは1つの参加条件に対して複雑に細分化された多数の基準が紐づいており、病院側も審査官側も解釈に苦しんでいました。法的規制に直接結びつかない独自基準が200近くもあり、現場にとっては労力ばかりかかって患者の安全に直結しない無駄な作業になっていたのです。新プロセスでは基準が1対1に近い形でスッキリと整理されました。

HTM分野での具体的な変更点も詳しく解説されました。これまで環境ケアやライフセーフティとして分かれていた章が統合され、新たに物理環境という章になりました。その中の大きな枠組みに、医療機器管理などの要件が集約された形です。

基準から削除された項目もあります。修理マニュアルのライブラリ維持要件や、管理計画書の提出義務です。しかし、彼は釘を刺しました。基準から消えたからといって、管理しなくていいわけではない。 産湯と一緒に赤子を流すような真似はしないでほしい。リコール対象機器をどう管理しているかと尋ねた時、すぐに文書化された手順を出せなければ、当然アウトになります。手取り足取りのチェックリストは廃止するが、結果として安全管理ができているかをデータと実績で見せなさい、というより本質的な評価に変わったのです。


直近のサーベイで実際に指摘が多かった事項のトップも発表されました。アメリカの病院現場で起きているリアルな問題が浮き彫りになっています。

7位と6位には台帳漏れと使用前点検の欠如が入りました。特に多いのが血糖測定器の台帳漏れです。またカテーテル室などでメーカーの業者が勝手に新しいペースメーカーのプログラマーを持ち込み、点検を通さずに使い始めているケースが頻発しているとのこと。4位はテープの粘着残りでした。ICUや手術室で、看護師が輸液ポンプにテープでメモを貼り、剥がした後にベタベタの残留物が残っている。これは立派な感染管理リスクとして指摘されます。

そして不名誉なトップ3です。第3位が延長コードの使用、第2位が低リスク機器の保守漏れ、第1位が電源タップの不適切使用。 1位と3位が電源問題でした。古い施設ではコンセントの数が圧倒的に足りず、スタッフが勝手に市販の延長コードや電源タップを持ち込んでタコ足配線をしてしまうのです。点滴スタンドに電源タップを固定し、輸液ポンプを繋ぐのは問題ない。しかし、そこに加温器や他の機器を差し込み始めた瞬間、重大な違反になります、と彼は警告しました。

長年審査官を務めてきた彼から、訪問時のアドバイスも送られました。アナウンスが流れても走らないこと。事前に下見をし、期限切れステッカーなどを一掃しておくこと。要求された以上の情報を出さないこと。2台分の記録を出してと言われたら2台分だけ出す。自信満々に全部のバインダーを持ってくると、審査官はすべてをチェックし始め、余計なアラ探しをする。記録になければやっていないのと同じ。文書がすべてだ、と。

そして何よりも、機器台帳を完璧に整理しておくことが大切です。審査官が来た時にその場でシステムからレポートを出そうとしてパニックになる病院があまりにも多いそうです。事前に機器ID、型番、リスクレベル、PM頻度、最終実施日をソートできるリストを作っておけば、何も怖くない、とアドバイスしました。


講演の後はフロアからの質疑応答です。全米から集まった現場のプロフェッショナルたちからの切実な質問が飛び交いました。

最初にマイクを握ったのは、年間最優秀医療機器管理者の受賞歴もあるシニアアナリストでした。彼の声には悲痛な響きがありました。サービスマニュアルや文書を備えることを求める基準が削除されたと聞いて、みぞおちを殴られたような気分だ、と。あの基準はメーカーから技術情報を引き出すための重要な武器だった。作業台のキャビネットに基準のページを貼り付け、メーカーにこの基準があるのだと突きつけて情報を得てきた。それを無くされては、メーカーは情報を共有しなくなる。これに対し審査官は、多くのマニュアルがオンラインで入手できるようになったからこその判断だが、フィードバックは確実に本部へ持ち帰ると真摯に応じました。

続いて予防保全の完了率についての質問が飛びました。100%完了というのは、全機器を期限内に実際に点検しなければならないのか、それとも点検できなかった旨を記録すれば100%とみなされるのか。審査官の回答は明快でした。文書化、文書化、文書化。 機器が所在不明であったり患者に使用中で点検できなかったりしても、追跡・対応したプロセスが正しく文書化されていれば、不利にはならない。

手術室の看護師からは、コンセントが足りない中で延長コードを使わずにどうすればいいのか、現場は本当に困っているという切実な悩みが寄せられました。彼はHTMだけでなく建物を管理する施設部門を巻き込んでほしいと答えました。壁に回路を数本追加し、適切な場所にコンセントを新設するだけで解決することが多いのだ、と部門間連携の重要性を説きました。


熱気に満ちた基調講演と質疑応答が終わり、社長兼CEOが再び壇上に立ちました。医療機器サイバーセキュリティ、人材不足、AIの統合など、直面する最大の課題について共に考えた数日間だったが、何より大切なのは互いから学んだことだ。皆様の献身こそが病院を安全に保ち、患者を健やかにしている、と。午後はエキスポ会場で開発途上国へ送る医療機器を修理するボランティアイベントが開催され、メーカーの技術者と共に作業するという素晴らしい締めくくりでした。

次回はフロリダ州でお会いしましょう、という言葉でデンバーでのカンファレンスは幕を閉じました。

予定外のドタバタ帰国対応から始まり、見送った後の安堵とともに駆け抜けた最終日でした。日本の同志の受賞を祝うとともに、アメリカの医療安全を守る最前線の熱い思いを肌で感じることができた、忘れられない一日でした 🥺。

長くなりましたが、これで今日の記録を終えます。

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この記事を書いた人

Tomo(長澤 智一)
臨床工学技士 / 米国認定心血管インターベンション専門士(RCIS)

日本では体外循環(Perfusionist)を行なっておりました。米国ではカテーテル室(Cath & EP Lab)の第一線で活動する臨床工学技士。日本での臨床経験を経て渡米し、全米トップ5%にランクされる医療施設にてRCISとして従事。

自身の経験から、日本の臨床工学技士が持つ技術力の高さを確信し、その可能性をグローバルに広げるための情報発信を行う。「現場のリアルを、次世代のスタンダードに」をモットーに、医療現場レベルの正確性と誠実さを追求したキャリア支援を提案している。

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