二日目は、朝から少しだけ気持ちが軽い一日でした。というのも、エキスポの開幕が夕方だったのです。会期中、まとまった時間が取れるのはこの日くらいで、生活まわりの用事を片付けられるのも、この日しかありませんでした。ですから午前中は、学会のことを一度脇に置いて、街へ買い出しに出かけることにしました。
最初に向かったのは、Costcoです。アメリカのCostcoは、何度訪れてもその規模に圧倒されます。まず確保したいのは水でした。日本にいると忘れてしまいがちですが、滞在中の飲み水をどう調達するかは、海外では地味に大切な問題です。ホテルで買えば、500mlのペットボトルが一本で六ドルほどします。ところがCostcoなら、同じ500mlが四十本入って、五ドルもしません。この圧倒的な価格差を目の当たりにすると、やはり足を運んだ甲斐があったと思うのです。
買い物には、もう一つ大切な目的がありました。同行している耕介君のスーツケースです。彼は前日にウォルマートへも見に行ったそうなのですが、そちらでは一つで百四十ドルほど。それがCostcoでは、大小二つのスーツケースが、ほぼ同じ値段で手に入ったのです。これはもう即決でした。こういう買い物の巡り合わせも、旅の楽しみの一つです。
お土産探しは、肥田さん、吉岡さん、耕介君のお三方が、それぞれに巡っておられました。私と、通訳として同行してくれている私の娘は、運転手であり、通訳であり、そして日本から来た皆さんが行きたいお店へとご案内するナビゲーター役でした。皆さんに満足していただけることが、私たちにとっても何よりの幸せなのです。
食事の行き先は、吉岡さんが「ここへ行きたい」と言ってくださるので、迷うことがありませんでした。昼は、せっかくアメリカにいるのだからと、Hopdoddy Burger Barへ。分厚いパティのバーガーにかぶりつくと、ああ、アメリカに来て、アメリカを堪能してくれているのだと改めて実感します。どこへ行こうかと悩まずに目的地が決まるのは、本当にありがたいことでした。
その後はモールにも足を伸ばし、お孫さんへの衣装を選ぶ方もいれば、自分へのご褒美を見つける方もいて、それぞれにショッピングを楽しんでいただけたようです。慌ただしい学会日程の合間にあって、こうしたゆったりとした時間は、不思議と心が落ち着くものでした。
エキスポ・レジストレーションと、思わぬ再会
夕方、いよいよ学会モードへと切り替えます。AAMI eXchange 2026のレジストレーションに向かったのは、吉岡さんと私、そして通訳の娘の三名でした。
実は当初、野球観戦は欠かせないと、皆でチケットを取っていました。ところが、吉岡さんのアワード受賞を受けて、AAMIのパーティーへのお誘いが連日続くことになり、この日の野球観戦を、泣く泣くパーティーへと切り替えたのです。とはいえ、肥田さんと耕介君には、安全に、そして言葉の心配なく野球を楽しんでいただきたい。そこで私の息子とその友人にも加わってもらい、四人で球場へ向かってもらいました。試合は乱戦となり、ロッキーズが逆転ホームランで勝利を飾ったそうです。肥田さんは、隣に居合わせた見ず知らずの方と思わずハグをして、勝利の喜びを分かち合ったとのこと。その話を後から聞いて、さぞ楽しい夜だったのだろうと、こちらまで嬉しくなりました。
レジストレーションを終えて、ふと周りを見渡すと、受賞者の大きなポスターが、会場のあちこちに誇らしげに掲げられていました。そして、日本のチームにとっての喜びが、もう一つ重なっていたのです。昨年AAMIに参加してくれた矢吹さんが、AAMIのスカラーシップに見事合格し、そのポスターの一枚に写っていたのでした。
実は昨年、矢吹さんと梅崎さんに、AAMIにはスカラーシップの制度があることをお伝えし、応募をお勧めしていました。もちろん応募には推薦文が必要ですから、推薦文は日本にいる方からいただいた方がよい、ということもお話ししました。募集が始まったときには「始まりましたよ」とお知らせもしたのですが、矢吹さんからは「もう応募しました」というお返事が返ってきたのです。そうして実際にスカラーシップに選ばれた姿を、こうして会場で目にすると、本当に嬉しいものです。
ここで、長年お世話になっているTomと、ばったり再会しました。話の中で、自然と故Mario氏の名前が出てきます。Mario氏は、はじめACCEの立場から、JACE ― 日本臨床工学技士会に関わってくださっていました。日本の学会にお招きしたこともあり、日本の臨床工学技士にも少なからぬ影響を与えてくださった方です。その後は、Global Clinical Engineering Alliance、いわゆるGCEAにも長く貢献されました。世界の臨床工学をつないでこられたその功績を偲ぶ声が、人々の口から自然とこぼれます。受賞を祝う明るさと、先人を偲ぶ静けさが、同じ場所に共存している。学会という場が、技術の品評会である以上に、人と人とのつながりの上に成り立っているのだと、改めて感じた瞬間でした。
エキスポ会場を歩く
その後、エキスポの会場へと入りました。レジストレーションに含まれているアルコール券二枚を、ビールとワインに交換します。それらを片手に、会場を歩いてまわるのです。これは、AAMI側の参加者と、出展している企業側とを結びつける、実に上手い仕組みだと感じました。グラスを手にしていると、自然と会話が生まれる。堅苦しさが取れて、人と人との距離が縮まるのです。
会場ではまず、吉岡さんのアワードのスポンサーであるGEへ、お礼も兼ねてうかがいました。そして、そこで目にしたのが、ビーコンを使った医療機器の資産管理システムでした。
仕組みを聞いて、なるほどと膝を打ちました。機器一つひとつに小さな発信機を取り付け、その位置情報をクラウドで管理する。担当者は手元の画面で、どの部屋にどの機器があるかを、リアルタイムで把握できるのです。
これは、現場を知る人間ほど価値が分かる話です。病院では、機器がどこにあるか分からなくなることが、日常的に起こります。必要なときに探し回る時間は、積み重なると決して馬鹿になりません。位置だけでなく、その機器が清潔な状態なのか、使える状態なのか、といったことまで部屋単位で見えるといいます。
技術的に感心したのは、導入のしやすさでした。担当者の説明によれば、従来この種のシステムを入れるには、配線工事などで数ヶ月単位の時間がかかっていたそうです。それが無線化によって、四ヶ月かかっていたものが二週間ほどで立ち上がるようになったといいます。現場を止めずに導入できるかどうかは、こうしたシステムが広まるかどうかを左右する、大きな要素です。日本での展開についても話が及び、私自身、これがどう受け入れられていくのか、興味が尽きませんでした。
パーティーにて
夜のパーティーは、終始あたたかい空気に包まれていました。吉岡さんの受賞を、各国から集まった方々が口々に祝福してくださるのです。国も言葉も違う人々が、同じ分野に身を置く仲間として、一人の受賞を心から喜ぶ。その光景に、私は胸が熱くなりました。
同じテーブルには、AAMIの前会長であるスティーブン氏が座っておられました。実は昨年のAAMIで、彼が大の犬好きだということを話していたのです。ですから今年は、お互いの愛犬の写真を見せ合いながら、すっかり話し込んでしまいました。専門の話から離れて、こうして人として打ち解けられる時間は、学会の醍醐味の一つです。一年越しに同じ話題で笑い合えるというのも、毎年顔を合わせているからこその嬉しさでした。
もうお一方、Steris Corporationの元CEOであるWalt氏からは、トヨタ生産方式の、いわゆるカンバン方式についてのお話を聞かせていただきました。日本で生まれた生産管理の考え方が、アメリカの医療機器業界の第一線におられた方の口から語られる。そのことに、私は不思議な感慨を覚えました。良いものは国境を越えて学ばれ、根づいていく。医療機器の世界もまた、そうやって互いに学び合いながら前へ進んでいくのだと、改めて感じた夜でした。
そして、GCEAを支えるヤディンとも再会することができました。久しぶりの再会が嬉しくて、互いにハグを交わしたのですが——そのとき、彼の手にあった赤ワインが、私の背中にこぼれてしまったのです。スーツもシャツも、見事に赤ワインに染まってしまいました。ホテルに帰ってからの染み抜きには、ずいぶん苦労させられましたが、こうして振り返ってみると、これもまた忘れがたい思い出です。再会の嬉しさのあまり、ということに免じて、ヤディンを笑って許すことにしました。
二日目を終えて
買い出しから始まり、バーガーで腹を満たし、お土産を選び、学会に登録し、思わぬ再会に心を温め、エキスポを歩き、そしてパーティーで旧交をあたためる。こうして並べてみると、ずいぶんと振れ幅の大きい一日でした。生活のこまごまとした用事と、専門家としての関心と、仲間への祝福とが、同じ一日の中に詰まっていたのです。
エキスポで見た資産管理システムは、私が日々向き合っている現場の課題と、地続きのものでした。新しい技術は、いつも「現場の困りごと」から逆算して生まれてくる。それを世界の最前線で確かめられることこそ、こうした国際学会に足を運ぶ意味なのだと思います。
明日からは、いよいよセッションが本格的に動き出します。デンバーでの日々は、まだ始まったばかりです。

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