日本の臨床工学の未来を拓く。日米の架け橋として次世代の挑戦を応援します

【米国駐在員報告・特別編】日本臨床工学技士からアメリカの最前線へ:AAMI2016の軌跡と10年後の現在地

※この記事は、2016年に公益社団法人日本臨床工学技士会(JACE)へ寄稿した米国駐在員レポートを基に、2026年現在の最新の知見と日米医療現場の変遷を加えて大幅に加筆・再構成したものです。

いつもお世話になっております。 日本臨床工学技士会(JACE)で Chief Overseas Representative Officer(米国駐在員)を務めております、長澤 智一です。

現在私は、米国のコロラドスプリングスにある UCHealth Memorial Hospital にて、Registered Cardiovascular Invasive Specialist (RCIS) としてEP Lab(カテーテル治療チーム)の第一線で勤務しています。

私がJACEの国際交流活動に力を入れ続けている理由は、2016年のAAMI(医療機器開発ガイドラインの国際標準化機関)カンファレンス参加時に抱いたある「確信」に基づいています。本日は、当時の熱気あふれる旅行記を振り返りながら、10年の時を経てアメリカの医療現場がどう進化したのか、そしてこれから世界を目指す皆様へ向けたメッセージをお届けします。


目次

1. 試練の幕開けと、米国医療の「治療から予防へ」

【2016年当時の記録:第1日目〜第2日目】 (※当時の熱気をそのままお伝えします) 私は、テキサスのヒューストン空港で皆様と合流しました。ヒューストンは豪雨による洪水に見舞われており、飛行機が突然キャンセルされるという試練からのスタートでした。16時間待たされ、翌朝4時にタンパへ到着。しかし、この試練によって参加メンバーの意識が一つに集まり、早くも団結できたように思います。まさに『試練は、人を成長させる』です。

第2日目はタンパジェネラルホスピタル病院の見学でした。アメリカの病院には厳しい個人情報保護法があり、見学は非常に貴重な体験です。当時すでに電子カルテ EPIC の導入によりIT化が進んでおり、「医療費の80%を占める手術などの最終手段を減らすため、治療から予防へ進むべきだ」という現地の言葉に深く感銘を受けました。利益を上げるためのアメリカの病院のスピード感は凄まじいものがありました。 その後、アメリカの文化である「遊ぶ時には、存分に遊ぶ」を肌で感じていただくため、夕食は美味しいリーバイ(リブアイ)ステーキを堪能しました。

💡 2026年の長澤視点(Time Capsule Commentary)

2026年の医療現場:進化し続けるITと、変わらない「アメリカの良さ」

2016年当時、EPICの導入や「予防医療へのシフト」を目の当たりにして大きな衝撃を受けたことを、今でも鮮明に覚えています。それから10年が経った2026年現在、米国の医療現場におけるIT化と効率化は、止まることなくさらなる進化を遂げ続けています。

1. 拡大し続ける医療プラットフォームの可能性

かつては別々のシステムで動いていた膨大なデータや機能が、今ではEPICという巨大なプラットフォームへと、リアルタイムでインテグレートされ続けています。 さらに、システムの中心は従来のデスクトップPCから携帯電話(モバイル)へと、今もなおシフトし続けています。手のひらの中にあるデバイスが医療の意思決定を支える主役となり、現場の機動力は日々アップデートされている……。そんな躍動感を肌で感じる毎日です。

2. プロとして働き続けるための「変わらない核心」

このようにテクノロジーが目まぐるしく変化していく一方で、当時から変わることのない「アメリカの良さ」もしっかりと息づいています。

それは、「オンとオフの明確な切り替え」です。

現場にいる間はプロフェッショナルとして完璧な結果を追求し、命と向き合う。そして一歩外に出れば、仕事のことは一旦横に置いて、自分の人生を全力で楽しむ。この「メリハリ」のマインドセットこそが、精神的にも肉体的にも過酷な医療現場において、私たちが走り続けるための最大の秘訣だと確信しています。

3. テクノロジーと人間性の調和

最先端のITツールによって無駄を削ぎ落とし、生まれた余白で人生を豊かにする。 2026年の今、この効率化の波と「よく働き、よく遊ぶ」という文化が融合することで、米国の医療現場はさらにパワフルで魅力的な場所へと進化し続けています。


2. AAMI本番と、壁を越えるコミュニケーション

【2016年当時の記録:第3日目〜第4日目】 AAMIカンファレンスのレジストレーションは全て英語。高いハードルを感じる中、皆様のサポートを行いました。夕食時のJSMI(一般社団法人日本医療機器学会)の先生方との食事会では、「Vanilla(バニラ)」の発音が通じないというアメリカ英会話あるあるで大爆笑が起き、私は愛情を込めて『バネラ先輩』と呼ばれることに(笑)。

日曜日の講演本番。アメリカの朝は早く、AM7:30集合です。つたない英語でも、ボディランゲージをフルに使って熱意を伝え、見事『大入り』を果たしました。臨床工学技士が座長や演者として英語で堂々と発表する姿は、今後の学習への大きなモチベーションアップに繋がったはずです。 その後のティーパーティーでは、日米両国が交流を図り、私はなぜか、けん玉アクティビティで優勝するというミラクルを起こしました。

「バネラ先輩」誕生秘話:完璧な発音よりも大切なこと

アメリカに到着して3日目、夕食はJSMI(日本医療機器学会)の先生方との顔合わせでした。メインディッシュが終わり、各自でデザートを注文する時のことです。

前日に「チョコレートのゴディバは『ゴダイバ(お台場)』に英語的なイントネーションを加える位じゃないと通じない」と話していたこともあり、みんなのアメリカ英会話実践が始まりました。そう、アイスの「バニラ」もそのままでは通じないのです。「バニラは、『バネラ』と発音しないと通じなくて、それでも通じない場合は、『バネラ』と口だけ動かす』と通じる!」などと、英会話あるあるを喋っていました。

店員さんへアイスクリームの注文では、「バネラ」と発音する人。「バネラ」と口だけ大げさに動かす人(笑)。 みんなの努力が見事に通じて「おー凄い!英語が通じた!」と感動したのも束の間、なんとお店の店員さんからは「この店にはバニラアイスはなくて、バナナアイスしかありませんって言ってるやん」のオチ。 これにはDr陣も我々も大爆笑。この日から私は、皆さんに愛情を込めて「バネラ先輩」と呼ばれることになりました。

💡 Time Capsule Commentary:コロラドの風に吹かれて思うこと

「伝わらない」から始まる、本当のコミュニケーション

2026年現在、私はコロラドのUCHealth Memorial Hospitalで、RCISとしてEPラボの最前線に立っています。アメリカ生活も長くなりましたが、それでも同僚から**「Huh?(え、なんて?)」**と聞き返される瞬間は、今でも日常茶飯事です。

かつてJSMIの先生方と「バニラ(Vanilla)」が通じずに「バネラ!」と叫んでいたあの夜から、本質は何も変わっていません。海外挑戦を志す皆さんに、今の私が一番伝えたいこと。それは、完璧な英語への幻想は、今すぐ捨てていい」ということです。

「バネラ」から「万雷の拍手」へ:あの時、僕たちが超えた壁

今思い出しても笑ってしまう「バネラ先輩」のエピソード。レストランでアイス一つ注文するのに、口を大げさに動かして必死に「バネラ!」と伝えていた若手メンバーたちの姿は、滑稽でありながらも、どこか神聖な「挑戦」そのものでした。

しかし、この話の真骨頂は翌日にあります。 前夜、アイス一つ頼むのに冷や汗をかいていた彼らが、AAMI(米国医療機器進歩協会)と日本生体医工学会(JSMI)の共同セッションの舞台では、堂々と英語でプレゼンをやり遂げたのです。 発音の拙さを補って余りある「伝えたい内容」の熱量が、会場を埋め尽くす聴衆に届き、最後には万雷の拍手が巻き起こりました。あの光景こそが、言語の壁を超えた瞬間の正体でした。

1分1秒を争う現場で、発音よりも大切な「共通言語」

「アメリカで働くには、ネイティブのような発音が必要だ」と思い込んでいませんか? 確かに言葉は重要です。しかし、全米トップクラスの現場で求められる「シームレス・コラボレーション(役割を超えた連携)」において、発音の美しさが最優先されたことは一度もありません。

  • 心タンポナーデのような、一分一秒を争う緊急事態。
  • 次々と症例をこなす**PFA(パルス電界アブレーション)**の目まぐるしいターンオーバー。

こうした極限の現場で本当に求められるのは、教科書通りの綺麗な英語ではありません。「ボディランゲージをフルに使ってでも、今、目の前の必要な事を伝える」という圧倒的な熱意です。

大事なのは、そこで黙り込まずに「伝えよう」と口を動かし続けること。

海外挑戦を志すあなたへ:完璧という重荷を今すぐ下ろそう

2026年の私から見れば、完璧な英語を待ってから挑戦するなんて、あまりにも時間がもったいない。 不完全な英語でも、あなたの持つ専門性と情熱があれば、必ず道は開けます。「バネラ!」と笑い合ったあの日のように、失敗を恐れず、まずは一歩を踏み出してみてください。その勇気の先に、言葉を超えた「信頼」という報酬が待っています。

英語の壁は、高くそびえ立っているように見えます。でも、その正体は意外と「完璧でなければならない」という自分自身の思い込みだったりします。

美しい英語より、心からのガッツを!。 その一歩を踏み出した先には、言葉の壁を越えた、刺激的で素晴らしいキャリアが待っています。

とは言っても、現場のクリティカルな場面において「ガッツ」だけではどうにもならない現実も、私は痛いほど知っています。
理想を言えば、今すぐアメリカに飛び込み、現地の学校で24時間英語漬けになるのが最短ルートです。しかし、日本の臨床現場で責任ある立場にいる皆さんにとって、いきなり全てを捨てて渡米するのは、あまりにハードルが高い選択でしょう。
「日本にいながら、留学に近い『英語脳』を作ることはできないか?」
実は、今の私がもし日本にいたとしても選ぶであろう、現実的かつ効果的なトレーニング方法があります。まずはここから、「現場で戦える英語」の基礎体力をつけてみてください。

\ 臨床現場で戦うための「英語脳」を作る /

3. 未来への種まきと、受け継がれる「You can do it!」

【2016年当時の記録:第5日目〜第6日目】 第26回日本臨床工学会のゲストスピーカーであるMarioとミーティングを行い、医療機器管理専門臨床工学技士制度を立ち上げるための話し合いをスタートさせました。世界40か国以上に影響を与える認定制度の内容を学び、日本へ定着させる大きな一歩です。

最終日はNASAを見学し、その圧倒的なスケールとプレゼン力に感銘を受けました。帰りの車中や最後の夜の飲み会では、未来のCEのため、日本臨床工学技士会の役割、医工連携、パテントの取り方やビジネスとしての収益面の考え方など、非常に熱く深いディスカッションが交わされました。

最後に私から、参加者の皆様へのメッセージです。 You can do it! Anything you want! あなたなら、あなたが望む事なんでもできる! I believe in you. 私は、あなたの中の可能性を信じてるよ!

💡 Time Capsule Commentary —— 理想を現実に変える力

当時熱く語り合ったあの時間は、まさに「未来への種まき」でした。あれから10年。当時掲げた「医工連携」や「ビジネス視点」の重要性は、今や日本の医療の未来を左右する鍵となっています。技術を磨く情熱と同じ熱量で、その技術を支える「仕組み(ビジネス・法務)」を学んでほしい。10年前の私たちがそうだったように、あなたが望めば、道は必ず世界へと繋がっています。


次のステージへ挑戦する皆様へ

10年前のこの熱気あるアメリカ訪問が、参加したメンバーの「スイッチ」を入れたように、この記事があなたの新しい一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。

臨床工学技士、看護師、医師をはじめとする日本の優秀な医療従事者には、アメリカで活躍できる十分なポテンシャルがあります。また、優れた日本の医療機器やサービスを米国市場へ展開したいと考える方も増えています。

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この記事を書いた人

Tomo(長澤 智一)
臨床工学技士 / 米国認定心血管インターベンション専門士(RCIS)

日本では体外循環(Perfusionist)を行なっておりました。米国ではカテーテル室(Cath & EP Lab)の第一線で活動する臨床工学技士。日本での臨床経験を経て渡米し、全米トップ5%にランクされる医療施設にてRCISとして従事。

自身の経験から、日本の臨床工学技士が持つ技術力の高さを確信し、その可能性をグローバルに広げるための情報発信を行う。「現場のリアルを、次世代のスタンダードに」をモットーに、医療現場レベルの正確性と誠実さを追求したキャリア支援を提案している。

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